ハーブと花の写真講座

視点

普通に視点と言うと、どこを見ているか、ということになります。ここでは「見ている人の視点の動き」という点を中心に話を進めていきます。人間の目は素晴らしい機能を持っていて、好きなものや嫌いなもの、好ましいものや違和感のあるものを自然に見つけ、意識がそちらへ移っていきます。見せたい主題や表現したいことから意識をそらさないように、むしろ、意識を集中してもらえるように撮りたいものです。

実例

実例の被写体はセージ。立体的な花であると同時に、マクロ撮影すると動物か何かのような表情を見せてくれます。この特徴が、見る側に対して視点を誘導するような効果があるようです。これから述べていくことは、筆者が感じることでもあるので、「そんなことはない!」と思われる方もいらっしゃるでしょう。一般論とは限りません。

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左の写真には何か問題があるでしょうか。特に大きな問題は見当たらないようです。強いてあげれば、左上の領域が白くなっており、そこにボケた赤い花が写っていますね。ごくわずかな違和感がここから出てきてしまいます。
メインとなる花は左側を向いており、その上の蕾も左上を向いています。つまり、これらは左上側に視点を誘導する効果があります。何人からの人が空を見上げていると、なんとなく一緒に見上げたくなる。そういうような働きがあるというわけです。そしてその先にあるのは白地に赤という最も目立つ組合せの一つです。この写真でのこの程度のことであれば気にするべきではないと考えることもできます。しかしながら、ここで言いたいのは、「見る人の視点を誘導する効果」についてであり、この写真は弱いながらもそういう効果を発揮しているのです。

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さて次の写真。背景に赤い花がボケて写っており、少々これが目立っていますね。構図としては、中心に主題が鎮座している「日の丸写真」で、褒められたものではありません。しかし、この写真は別の不思議な効果を発揮します。
このセージは正面から見ると何とも面白い形をしているのです。テディベアのような、ペンギンのような、どっしりとした動物がこちらを向いているようです。この被写体は、我々の視点を他にそらせないような、注意をそこへ向けるような効果を発揮しています。今にも動き出すかもしれないし、少なくともこの花はあなたを見ていますから。日の丸の構図と背景のボケがあいまって、これはこれで面白い写真というわけです。もっと大きく、ディテールを眺めて楽しめるような写真に仕上げた方が良かったでしょうね。

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さて、今度は同じ花で、わずかに右を向かせました。これにより、少し離れて見えてみた右側のボケた花が近くに寄り添うようになりました。今度の写真ではこのボケた花が邪魔な印象を与えています。もちろん、すぐ近くに、かぶさったように見えているので、気になるのは当たり前。でも、それ以上に理由があります。
もう既にお解りでしょう。右を向いている花のすぐ前、鼻っ面に何かがあることが問題となります。この同じ花のボケが反対側にあったら、ちょうどこの次の写真のようになっていれば気になり方はずっと小さくなるはずです。窮屈な印象もやわらいでくれるでしょう。

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同じシリーズで次の1枚。背景には花がついた枝が左側にボケて写っています。けれど、そんなに窮屈な印象や汚れた印象は感じずにすむと思います。そう、花が向いている右側の空間に目が行くからです。花自体が右側を向いていることで、視点は右へ誘導されます。更に、枝がそのすぐ左側にある上、更に左側の背景が混雑していることで、視点を右へ誘導する効果が強められています。
誘導されて見た場所、右側の空間は背景以外に何もありません。ここに何かがあれば意識がそこへ行ってしまうことになるので、それを逆に外していることになります。

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最初の1枚を少し傾けてみました。この傾きと、被写体を写真画面いっぱいにまで拡大したこととが合わさって、ダイナミックな雰囲気が出ていると思います。
この写真での視点は、左下へ誘導されていきます。ところが、左下には何も無く、多少の空間を経て画面の外となっています。これは、外側に何かがあるのかもしれない、と思わせるような期待感につながってくれます。花全体としても左へ向かって広がっていく姿ですから。
まあ、花の写真なので、この先に何があるかなんて真剣に考える人はいないでしょうけれどね。

失敗でも成功でもなく

今回の一連の写真は全て同じ枝を撮影しています。角度を変えることで表情も変わることになりますが、写真全体の雰囲気まで変えてしまうものなのですね。ここの写真はどれも失敗でもなく、成功でもありません。1枚目の写真にしても花は明るい方向を向いているわけですし、3枚目はちょっと何がありますが、5枚目が良く見えるのは「大きく撮れているから」が最大の理由ですしね。

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