ハーブと花の写真講座

露出補正

露出補正は元来、撮影する範囲に明るい部分と暗い部分が混在している時に、選んだ被写体が正しく見えるようにする方法のことです。例えば、逆光下においてはプラス方向(写真が明るくなる方向)に露出補正し、陰になってしまいがちな被写体を見易くするようにします。更にこの補正を積極的に使い、写真の明暗をわざとコントロールすることで、写真に落ち着きを与えたり、まぶしさを与えることも可能になります。暗めに撮ることをローキー、明るめに撮ることをハイキーと呼びますが、花の写真ではハイキーの方が良い印象を与えることが多いようです。
露出補正の効果は、フィルムの種類によって現れ方が違います。通常ネガフィルムは露出の変化に強く、露出が狂っていたとしてもそこそこ写ってくれます。このような露出の変化に対する適応度は「ラチチュード」と呼ばれ、ラチチュードが広いものは露出の変化に対する許容度が高い、言い換えれば、露出の変化に対して鈍感ということになります。これは逆に、露出補正を行ってもその効果が出難いということでもあります。ポジフィルムは露出の変化に敏感であるため、補正効果がきちんと現れますが、露出を間違えた場合には大失敗写真になりがちです。そして、デジタルカメラでは一般的にラチチュードは狭く、露出補正の効果が強く現れます。

露出補正による変化

被写体としてはダイヤーズカモマイルを選んでみました。染料に使われるこの花は、オレンジがかった黄色が美しく、暗い状態でも明るい状態でもそれぞれ良さを示してくれます。今回の撮影においては、背景に対してカモマイルの花がやや明るいため、画面全体を評価している標準的な光量では花の部分に関しては暗めになってしまう難しい題材であることを念頭に置いてください。
ここでは、露出補正をプラスマイナス2ステップまで変化させた写真を並べています。もちろん、レタッチソフトによる補正は一切行わず、撮ったそのままを大きさのみ変えて掲載しています。露出補正による効果はカメラ毎で異なり、同じステップ数を用いても違う結果となります。そもそも補正ステップの大きさが異なることが第一の理由で、第二の理由はデジカメ特有ですが、機種毎にラチチュードが異なることです。ですので、ここにあるサンプルがそのまま自分のカメラでも同じようになると考えてはいけません。
ちなみに、+1evというのは、標準に対して倍の光量とすることを意味しており、シャッタースピードや絞りを1段ずらすことになります。この1段というのは、シャッタースピードでは半分の遅さ、絞りであれば約0.7倍の値になります。(光の量は絞りの二乗に比例するため、絞りの値つまりf値は、半分ではなく0.7倍刻みになっているのです)
-2EV
マイナス2ステップ補正。1/1500秒 f5.6です。
さすがに暗いですね。深みがあるとか落ち着きがある、という限界を超えて、暗くてはっきりしない写真です。花弁の筋模様や中心部のディテールは他の写真よりははっきりしています。
ちなみに、ここまでくると光量不足によるノイズが目立つこともよくあることですが、この写真ではそれは何とか回避できています。
-1EV
マイナス1ステップ補正。1/500秒 f5.6です。
まだやや暗い感じがしていますが、花のディテールは比較的よく表現できています。上述したとおり、背景の暗さに引きずられて全体的に暗くなっているわけですが、表現そのものは悪くはありません。
この写真をベースにして、軽く明るさを補正するレタッチを加えればより良い写真になりそうです。
0EV
補正しない標準。1/250秒 f5.6です。
これがごく普通の写真と言って良いでしょう。明るい部分では花弁の筋模様などが識別しにくくなっていますが、色や明るさの再現もイメージに近く、素直に綺麗に撮れた写真として仕上がっています。
スポット測光ではなくパターン測光ですので、背景の暗さが影響でもっと暗いトーンになっていてもおかしくはないのですが、カメラが賢い判断をしたようです。
+1EV
プラス1ステップ補正。1/180秒 f5.6です。
ぐっと明るくなりました。花弁の色合いはなんとか残っているものの、模様は飛んでしまっていて見えません。花の中心部についても、細かい描写はできていません。
それでもこの明るい雰囲気が好き、ということであれば、これはこれで採用することもありえるでしょう。
+2EV
プラス2ステップ補正。1/60秒 f5.6です。
完全に飛んでいます。花弁の明るい部分は白くなってしまっているし、模様はおろか、中心部においてさえ様子が全くわからなくなっています。普通に失敗作と考えるべきでしょう。
これでも何かの挿絵とかには使えるかもしれませんけどね。

作例

-EV
セージの写真です。たまたまスポットライト的に光が当たっていたため、背景を捨てて光量を調整しました。
この写真では、明るさによる効果を出すことよりは、被写体であるセージを正しい光量で撮影することを狙っています。構図との関係、つまり、暗い背景を選んだことにより、真っ暗な中に浮き出るような効果が出せたわけですが、花そのものに関しては多少くらめながらも、白くて明るい部分も表現できています。
+EV
黄色のナスタチウムを思い切って飛ばして撮ってみました。失敗作どころではないですよね。そうです。これは完全に一発芸のような印象のみを狙ったものです。
この写真で注意していただきたいところがあります。まず一つ目は、これだけ明るくしていても、白く飛んでしまうことはなく、筆者の頭の中にある「ナスタチウムの色」が再現されている点です。二つ目は、中央やや右下の花の模様がわずかながらも見えている点です。三つ目は、背景にも光が回り、写真全体が淡く明るくなっている点です。
これらの点が花同士の境界さえはっきりしない超ハイキー写真を「ナスタチウムの写真」として成立させ、かつ、印象的写真としているのです。

うまく使う方法

デジタルカメラはラチチュードが狭いというのは上述の通りです。少し暗く補正しただけでも真っ黒につぶれてしまったり、少し明るく補正すると真っ白に飛んでしまうようなことも起きてしまいます。およそのコツをつかんでおくか、何段階かに分けて補正しながら撮ってみるか、そういう工夫が必要になるでしょう。ただし、多様は禁物。

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